「特別なことをしなくていい。ただ、“そこ”にあるものをちゃんと見つめてみるだけ。」
そう語ってくれたのは、地方を拠点に活動する編集者・田村さん(仮名)。
都市では見過ごされがちな“ふつう”を拾いあげ、それを丁寧に伝えることで、思いがけない感動が生まれるといいます。
東京の“最先端”から距離をとるという選択
SNSやニュースを眺めていると、「東京発」の情報が日本のすべてのように錯覚してしまうことがあります。
でも実際は、私たちの生活の大半は、もっと小さな街や、もっと普通の暮らしの中にある。
だからこそ田村さんは、あえて東京を離れ、地方に腰を据えて編集の仕事をはじめました。
「ローカルには“解像度”がある」と彼は言います。
「例えば“冬の朝の空気のにおい”とか、“地域の商店のおばちゃんの笑顔”とか。
そういう細部が、ちゃんと“届く”ように伝えられるのが、ローカル発の編集なんです」
「ふつう」を肯定することの難しさと強さ
都会では「誰よりも目立つ」ことが正解とされがちです。
でもローカルの編集では、その逆をやることが多いといいます。
「特別じゃないけど、なくなったら困るもの」
「毎日そこにあるけど、意外と気づかれていないこと」
そうした“ふつう”のものに価値を与えるのが、編集という営み。
それは「見出しをつけること」でもあり、「言葉を与えること」でもあります。
情報は“保存”してこそ意味がある
最近では、ウェブで記事を書いたとしても、アルゴリズムやSNSの流行り廃りに左右されて、数日後には誰の目にも触れなくなることが多くなっています。
田村さんが重視しているのは、“20年後にも読まれる記事”をつくること。
「すぐにバズらなくてもいい。10年後に“あのときの地域ってこんな空気だったんだ”って思ってもらえれば、それでいいんです」
その言葉のとおり、彼のメディアではアーカイブ性を大事にし、検索に頼らずとも自然とたどり着けるような工夫を重ねています。
ローカルから未来をつくる
“ローカル”という言葉は、単に「地方」を意味するだけではありません。
その土地で生きる人の声、日々の営み、風景、記憶──そうしたすべてを丁寧にすくい上げる行為の総称です。
たった一つの町の話が、誰かの人生の灯火になる。
そんな奇跡のような出来事が、編集というフィルターを通して何度も起きてきました。
未来の誰かが「懐かしい」と感じられるような“記録”を、今ここで、ローカルから編んでいく。
それが、田村さんが目指すメディアのあり方です。